もくじ
犬にアイコンタクトをさせなくてはならない
◎必要があれば目は合います
アイコンタクトをしないのは飼い主をバカにしている!?
そもそも、アイコンタクト、目が合うことを、そんなにシンプルに考えるべきではないと、中西は思っています。動物同士のアイコンタクトは、それはそれは深い意味を持っているのではないかと想像します。人間同士のアイコンタクトだって、いろんな意味があると思います。目つきや長さ、タイミング、角度、他のボディランゲージ等、非言語的な部分と合わせて、たくさんの要素でメッセージができあがっていると思うのです。
ですので、ただ「見た」「見ない」「そらした」などとシンプルに考えるのはおかしくないでしょうか?アイコンタクトすると、オキシトシンという幸せホルモンが出る、ということが科学的に証明されました。大変嬉しいことですが、もちろんそうでしょうね、という気もします。ただ、私の場合、愛犬とのアイコンタクトにはいろんな意味を感じていて、例えば、そろそろお手入れをしようかな、と思って目が合うと、逃げるやつもいます(笑)
目をそらすと服従している!?
犬と目があったとき、そらしたらそれは服従している、という説もありますが、それにも違和感を感じています。我が愛犬、ロックは、よく私を目を合わせてくれました。私のことがとても好きだと伝わってきたし、初めて飼った犬でしたから、私も特別な思いがありました。しばらくして迎えたコタローは、意図的に目を合わせるとそらしました。でも、それは服従というよりは、不快だから、というか、めんどうくさいというか、そんな雰囲気がありました。もちろん、コタローとも良い関係でしたので、嫌われているから、などということはなかった、と思います(笑)マイペースで天使という表現が似合う犬でした。
我が家で生まれたアトラスにとって、最初に刷り込まれた人間である自分とは、やはり特別な絆で結ばれているように感じます。彼とのアイコンタクトは、ロックのそれともまた違う感じです。全面的な信頼からくる、アトラスの「甘え」というか、私に対して自分を素直に表現し、自信をもってアピールしてくる感じが、なんとも愛おしく感じることが多いです。
目が合うのはリーダーだと認めているから!?
お客様先で出会う犬たちで、知らない人が家に入ってくることに恐怖を感じる犬は少なくありません。仕事柄、歓迎してくれる犬たちに合うことが極めて少ないことも事実ですが。そういう犬たちは、必死に私と距離を取りながら、すごい形相で吠えかかってきます。その目はしっかりと私を見ています。知らない人が怖いから、その動きを見ている必要があるからです。もちろん、リーダーだなんて思っていません。怖いから監視しているのです。
そういう犬たちのレッスンでは、私はなるべく彼らと目を合わせないようにします。目が合ったとたんに、恐怖で激しく吠え出すことが少なくないからです。こちらとしては、なんとか安心してもらおう、あわよくばなついてもらおうと思っていますので、目を合わせないように必死です。まるでこの家には犬なんかいません、というくらいの態度でいると、だんだん近づいてきてくれて、手からおやつを食べてからは友達になった、というケースも少なくありません。
ドッグトレーナーになりたてのころは、一生懸命、目が合うようにおやつなどを使ってやっていましたが、今考えると、必要なことだったのか疑問です。アイコンタクトは、もっと自然にするものなのではないかと思っています。目を合わせないことも受け入れて、目を合わせてくれることも受け入れて、その子、その子に合わせた、相互作用で関係を作っていくのが理想なのではないかと思います。トレーニングされて覚えたアイコンタクトができる子は、彼らが伝えたい本当のメッセージがわかりにくくなってしまっている、という印象があります。
訓練所にいたころを思い出すと、緊迫しすぎる訓練の場合、犬たちは必死で目をそらして、力が入りすぎている私たちをなだめてくれていたように思います。体に力が入りすぎていると、指の動き数センチの差、コンマ何秒のタイミングを、思うようにコントロールできなくなってしまいます。少しでも良い空気感にするために、犬たちは目をそらしてくれていたんだと、今となってわかりました。「もっと力を抜けよ」それが動物同士としての、彼らから私へのメッセージだったように思います。
甘噛みはやめさせなければならない
◎甘噛みは「あそぼう!」「友だち!」というメッセージです
甘噛みをする犬は悪い犬?
20年前に、初めて自分の責任で飼った犬、ロックを迎えたとき、甘噛みする犬はダメ犬、悪い犬、と言われました。なのでやめさせてしまったことを、今ではとても後悔しています。ロックは私と遊びたくて誘ってくれたのに、私はそれを拒否してしまったのです。拒否しなかったら、もっと仲良くなれたはずです。フーラの息子、アトラスは今でも甘噛みしてくれます。彼が私を友だちとして認めてくれている、仲良しの証です。
子犬同士は甘噛みしあって遊ぶ
2007年に、フーラを、恩師であるブリーダーが所有している種オス、ロビンと交配して5頭の子犬が生まれました。へその緒を切ったのは私です。幸いフーラはとてもよく子育てをしてくれて、子犬たちはコタロー、アクセル(イクワン)、母親フーラに囲まれてスクスクと育ちました。3〜4ヶ月まで子犬同士の遊びを観察することができましたが、毎日毎日、甘噛みをしていました。1頭、1頭、新しい飼い主さんのところへ嫁いでいきましたが、もらわれていった先には、もう兄弟犬はいません。毎日毎日楽しんでいた甘噛みの相手がいなくなってしまいます。でも子犬は遊びたい。すると、飼い主さんの「手」が、ちょうど良い相手になってくれるのです。
しかし!それを噛むと叱られてしまう。大変な罰をされることもある。なんという理不尽でしょう!
甘噛みを放っておいたら本気噛みにつながる
そういう説がありますが、私は犬たちと接してきて、そんなことはないのではないか、とずっと感じてきましたが、裏づけてくれるものがありませんでした。しかしある日、アメリカの動物学者、コロラド州立大学教授、テンプル・グランディンが書いた本「動物感覚」(NHK出版)には
『攻撃を司る脳の回路と、遊びを司る脳の回路は別にある』
とあったのです。つまり、「遊び」である「甘噛み」と、攻撃である「本気噛み」はつながっていないのです。2000頭以上向き合ってきたレッスンを振り返ってみると、甘噛みと本気噛みには、意外な真実がありました。犬たちは、その二つの噛みつきに関して、4つのタイプに分けることができるのです。
1. 甘噛み する 本気噛み する
2. 甘噛み する 本気噛み しない
3. 甘噛み しない 本気噛み する
4. 甘噛み しない 本気噛み しない
1.と2.は、甘噛みをやめさせなかったケースです。3.と4.は、甘噛みをやめさせたケースです。甘噛みをやめさせても、本気噛みをする犬がいます。私の経験からは、むしろ嫌悪刺激、犬が嫌がること、マズルをキャンと言うまで強く握る、口の奥に指をつっこむ、顎の下の毛をキャンというまで強く引っ張るなどでやめさせた場合、かえってそのせいで噛むようになったケースが多いと感じます。甘噛みを放っておいても、本気噛みしないこともあります。今までつきあってきた我が家の犬たち7頭、全員これに当てはまります。また、甘噛みを放っておいたら、甘噛みもするし、本気でも噛む、という犬もいるのです。もし、「甘噛みを放っておいたら本気噛みにつながる」というのが正しいのなら、すべて噛むようになるはずです。しかし現実は違います。犬が本気で噛むようになるのは、それなりに理由があるからです。噛むようになる理由のほとんどが、飼い主からの「しつけ」という名の「虐待」だと、私は感じています。